回路図を読もう

マイコンの選定は、多くのエンジニアが頭を悩まされる課題の一つだ。設計期間に余分な時間はなく、早くマイコンを選びたい。しかし、その選定を誤ると後で大変なことに……。エンジニアが悩む「マイコン選定」を、本稿では、よくある例として「ハードに対する機能がある程度決定し、回路図から必要な情報を読み出しマイコンを選定する」方法を解説する。

製品仕様からマイコンに必要な演算能力、つまり演算速度(MHz)と演算桁数(ビット数)が決まり、プログラムサイズとデータ量を推定すればメモリ(ROM・RAM)の大きさも決まる。ここまで決まったところで、対象となるマイコンのデータシートを確認すると、その種類の多さに圧倒されるだろう。

ここからが本稿の解説ポイントだ。用意したサンプル回路図(図1)を読み、必要になるマイコンの機能を把握しよう。以下が図1から読み取れる情報だ。

 

  1. LCD表示機(LCD1):パラレル4ビットモード
    LCDモジュールは汎用性が高く、多少ピンアサインの違いはあっても制御はどのモジュールも共通している。データーラインがD4~D7を使用しているところから4ビットモードと判断できる。
  2. EEPROM(U3):I2C
    接続端子名にSDA、SCLと記載があり、デバイス同士の2線シリアル通信でI2Cであることが分かる。
  3. RS-232C(U4):UART
    使用部品がADM232AARZNと記載されている。これはRS232-C用のインターフェースICであり、ここで使用されるのはUARTと判断できる。
  4. スイッチ(SW1~SW4):デジタルI/O
    プルアップ抵抗を通してスイッチが接続されているため、デジタル入力と分かる。
  5. LED(D1~D4) :デジタルI/O
    スイッチ同様にデジタル出力だが、オープンドレインのため電源から抵抗を通してLEDに接続されている。
  6. アナログ信号入力 :ADC
    外部からOPAMPの増幅回路を通っている。これはアナログ信号と考えられる。

 

図1:サンプル回路図

 

マイコン選定の基礎

 

図1のサンプル回路図は大変シンプルなので、使用するマイコンの機能は簡単に把握できただろう。これまでに分かったことを整理する。

 

  1. 使用する機能
    • デジタルI/O
    • I2C
    • UART
    • ADC
  2. 使用するポート数
    • LCD:8ポート
    • I2C:2ポート
    • UART:2ポート
    • デジタルI/O:8ポート
    • ADC:1ポート

合計21ポートを使用する

 

上記の機能を満たすマイコンであれば、30pin程度以上が選択対象になるだろう。大きすぎると実装面積の圧迫やコストの問題があるので、単純に「大は小を兼ねる」とはいかない。例えば、ルネサスの汎用16ビットマイコン「RL78G13」には30pinと32pinの製品があるが、30pinはちょうど良い大きさの選択、仕様変更や機能追加を考慮すれば32pinを選択するのも良いだろう。この辺りのさじ加減は経験だ。

次に、電源について注意しておこう。LCD、I2C、UARTで使用する部品はDC5Vで動作する。スイッチとLEDはマイコンの電源電圧に対応できるので、DC5Vで動作するマイコンを選定すれば良い。仮に、使用する部品が5Vと3.3Vなどが混在する場合には、レベル変換ICなどを使用して3.3Vから5Vや5Vから3.3Vへ変換することもある。

また、マイコンの起動時には、多くの電流が必要になる。このためデカップリングコンデンサが小さいと十分な電流を供給できず、電源電圧が降下してしまい正常に起動しなかったり、周辺部品に対する意図した制御が出来ず誤動作を起こしたりすることがある。マイコンにしっかりした電源を供給することにより安定した動作が実現する。

 

ポート設定の基礎

マイコンを選定したら、次は使用するポートの一覧表を作成しよう。これには、ソフト開発とハード開発の両方の情報が反映される。ソフト開発側は、この表に基づいてマイコンの初期値や機能を開発する。ハード開発では回路に対するプルアップ、プルダウンなど信号の処理を行っていく。そのために、下記の情報を用意する。

  1. ピン番号と対する機能
  2. 入力/出力、電源投入時の初期状態
  3. 機能説明

 

トラブルを未然に防ぐポート設定

最後にポート設定の注意点を二つ挙げる。マイコンのI/Oポートは、ハード的にはpin数だけ部品を接続することができるが、ソフト的にはレジスタ単位で制御する。注意が必要なのが、さまざまな回路を混在して使用している時だ。例えば、16ポート内に入出力が混在している場合に16bit長のレジスタを書き換えることにより、書き換えなくて良いデータまで書き換えてしまい誤動作を引き起こしてしまうなど……出来る限り入力は入力だけ 出力は出力だけとレジスタごとにまとめることでトラブルを避けよう。

また、OD(オープンドレイン)のポートが用意されているマイコンもある。ハードを設計する側には非常に便利で自由度のあるポートだが、このポートで大きな電流を流すと隣接するポートが影響を受け、マイコンの誤動作に繋がることがある。そのため、比較的大きな信号や高速でON/OFFを繰り返す信号(PWMなど)の場合には、1ポート空けるなどの注意をしよう。

 

本稿では基礎を簡単に説明するに留めたが、マイコン選定時に考慮するべきことは数多くある。ルネサスマイコンの選定で困ったら、かふぇルネの掲示板で質問してみてはどうだろう。経験豊かなエンジニアから貴重な情報が得られるだろう。

また、ルネサスでは欲しいマイコンをピタリと選ぶ「パラメトリック検索」を用意している。使い方は、最初に上段の製品カテゴリでマイコンを選び、「+パラメータを増やす」をクリックすればさまざまな機能を選択できる。これさえあれば、マイコンのデータシートを前に悩む必要はない!

 

パラメトリック検索の使い方

 

パラメータを増やす

 

拡張パラメータパネル

ピン数やUSB、タイマ、DAC、ADC等々で選択可能

 

検索結果のエクセル出力

 

検索結果のエクセル出力(出力例)

パラメトリック検索:http://japan.renesas.com/req/parametric_search.do?event=init#param;id=1;so=0;c=;l=;r=;o=1

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